森田 愛子 先生
(教育心理学)
先生が興味をもっている人間についての謎を教えてください。
私は,「読む」という行動に関心を持って研究をしています。
「聞く・話す」は,より自然発生的で直接的なコミュニケーションです。子どもは,まず「聞く・話す」からできるようになりますよね。それに比べ,「読む・書く」はより間接的で,複雑な学習が必要です。
「読む」の中でも,今は,私たちはたいてい黙読をしています。でも,歴史的にも,「黙読」は昔から一般的だったわけではありません。私たちも,「どうやって黙読するか」を,きちんと教わるわけではなく,ほとんど,それぞれが「声に出さないで読むようになる」だけではないでしょうか。
実は,同じ「黙読」でも,ひとによって,違うことをしています。つまり,私たちの「黙読」はひとによって中身が違うのです。頭の中で読み上げたり読み上げなかったりしています。また,読んでいるときの目の動き方(進み方や戻り方)もひとによって違います。文章の周りに図表がある場合など,ひとによって,「何から見るか」の順序が違ったりもします。
私たちは,なぜそんなふうに読んでいて,どういうときに,どういう黙読をしているのでしょう??
ひとによって違うということは,「より適した方法」があるのではないでしょうか。どうしたら上手く読めるのでしょうね??
今の研究テーマに関心を持ったきっかけを教えてください。
そもそも「読むことが好き」というのが大きな理由だと思います。「上手く読めるようになりたい」とか「はやく読めるようになりたい」と思っていました。
もう少し具体的な流れを思い起こすと,もともと(大学生になった頃),「教育に関わる何か」を研究したいと思っていましたし,「上手くできる・わかるようになる」学習のメカニズムを知りたいと思っていました。大学で,「心理言語学」という授業や,実験実習で言葉の実験をしたことがきっかけで,「そうだ,ことばの研究をしよう!楽しそう!」と思うようになりました。
さらに今の(狭い意味での)研究テーマで研究を始めたのは,「あれ?みんな,頭の中で全部読み上げながら読んでいるの?」とびっくりしたことがきっかけです(私は,頭の中であまり読み上げないタイプ)。
※日常的な「え,そうなの?」「他の人は違うの?」が研究につながるのが,心理学の楽しい点の1つだなと思います。
先生の研究ではどのようなデータを取得するのでしょうか?
「何かを読んでもらう」実験をすることが多いので,読んでいる間と読んだ後の行動指標を取ります。
具体的には,主に,下のようなものです。
- 反応時間,読み時間。読む速さです。
- 理解度。テストの正答率のような感じです。
- 眼球運動。読んでいる間の視線の動きを記録します。どこをどのくらい長く見ていたか,どんな順序で見ていたか,どれくらい大きく視線が動いたか,などがわかります。
研究をしていて、おもしろいと感じるのはどのようなことですか?
心理学の魅力はどのようなところにあると思いますか?
心理学では,ひとを対象にすることが多いので,ある程度,「経験上,こうだろう」と思っていることがあります。そして,ずっと心理学を学んでいれば,「こうしたらこういう反応が得られるだろうな」ということも,ある程度推測できます。
でもそこで,「そうだろうな」で済ませないのが,学問としての心理学の価値だと思います。
データをとって「あ,やっぱりそうなんだ!!」「え,そうなの?思っていたのと違う!」とわかる瞬間が,心理学の研究って楽しいよね,と一番思う瞬間です。